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私の中での疾風怒濤

坂口安吾の小説で「青鬼の褌を洗う女」というものがある。その話の冒頭で「匂いって何だろう。私は近頃人の話を聞いていても、言葉を鼻で嗅ぐようになった。ああ、そんな匂いかと思う。それだけなのだ。つまり、頭で聞き止めて考えるということがなくなったのだから、匂いというのは、頭がカラッポだということなんだろう。」
私は、何ともこの掴みにくい不思議な一文が好きだ。近頃寝ている時に度々同じ夢を見るようになり、それも「匂い」なんだと思うようになった。
その夢の1つは、私の師匠である「小川晋一」氏(http://shinichiogawa.com)のGLASS HOUSEの夢だ。
そしてもう1つは、その時アルバイトをしながら設計事務所に通っていたので、バイト先の小料理屋「とり若」さんの夢である。
数年前から、この2つが夢に出てくるのである。私が気になっていたからだろう…
思い返せばもう20年前のことなのだ。
漸く大きな波がきた。先月、事務所OBの方からメールが届き、「小川事務所OBOG会を広島で開催します。是非ご参加を。」云々…
このタイミング!あの時の匂い!「兎に角、行くべきだ!」と即決した。
そして、6月19日に出発した。
12時に広島到着。なんという高揚感!勿論そうさせているのは路面電車だ。
これに何回乗ったことだろう…しかもデザインがAudiに変わっている!
本当に懐かしい!広島は戦後復興華々しく、歴史のある街!20年を経て来てみると、言葉では表せないとてつもなく力強い感覚に襲われた。
そして、懇親会場は「流川」という飲み屋街なのだが、その近くにホテルを予約したので、チェックインして会場に向かった。その途中、横丁を歩いて会場へ向かうのだが…なんと、会場の隣にバイトしていた「とり若」さんが!
まさに、疾風怒濤:激しい風が吹き荒れ、大きな波が荒れ狂うさま。
私の心は千々に高揚した。
私は今、「匂い」を嗅いでいるのである。
20年ぶりの再会。私が退職した後の所員さんが大勢いた。新鮮な会話!本当に来て良かったと思う。
そして今年は小川晋一氏70歳。GLASS HOUSE30周年。ものすごい節目の年なのだ。
小川氏に誕生日プレゼントが渡された。小川氏お気に入りのニューヨーク「クライスラービル」の模型だ。
暫く誰とも建築意匠の話をしていなかった私は、会話に浸り、覚醒していた。
やがて2次会も終わり、帰る前にT氏が「激辛冷麺食べて帰るか」
私の気持ち「…ウォーーーーー!!!」
広島発祥の激辛冷麺!
本当に辛いのだ。言葉で説明するならば、食べた後、耳がキーンとするくらい辛い。
でも、本当に美味い。これほど美味いものはないのである。
翌朝、広島の街を楽しもうと歩いていると「とり若」のマスター、元気かな?と思ったが、こんな朝早くにお店が開いているわけがない。不安と好奇心の中、勇気を奮い立たせて立ち寄ってみた。
なんと!開いている!躊躇した後、思い切ってお店に入るとマスターが「あんた誰?」みたいな顔でこちらを見ている。私もそれを狙って入店したのだが…
私:「すみません、メバルの煮付けできます?」
マスター:「できません」
私:「マスター、僕が誰だかわかりますか?裕二です!」
マスター:「裕二か!?」
漸く私は夢で見た2つの匂いを嗅いだのだ。
私の中の疾風怒濤。何かが変わった。なんだかとてもスッキリした。